東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)214号 判決
事実及び理由
1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
(一)(1) 成立に争いのない甲第二号証の二及び三によれば、本願考案の台板について、本願考案の明細書には、実用新案登録請求の範囲に、「自動車のタイヤチエインのこう子型になつた部分のなかにはいる突出部分二個を有する台板」と記載され、考案の詳細な説明に、「じゆうらい、自動車タイヤチエインのとりつけは、通常ジヤツキを使用して、自動車の一部を持ちあげて行なつていた。これは相当に時間と手数を必要とした。本案によれば、自動車を持ちあげる必要はなく、極めて短時間に、しかもしつかりと能率的にとりつけることができる。」(第一頁第一五行ないし第二頁第一行)、「第四図は台板のとつ出部にチエインの格子形の部分をはめて、引き伸ばした所である。」(第二頁第七行、第八行)、「第五図はタイヤを、とつ出部の上に載せて、チエインバンドで固定する直前の状態である。」(同頁第九行、第一〇行)、「各図中1はとつ出部、2は平板の部分(中略)を示す。」(同頁第一一行、第一二行)、「この器具に使用する材料は普通鉄を使用するが自動車の重みに耐え得る強さを持つた鉄以外の金属、プラスチツク、あるいは強じんな木材等を使用することが可能である。」(同頁第一三行ないし第一六行)、「次に自動車を始動させ、ちようどタイヤが台板のとつ出部にのつたらブレーキをかけて止める。」(第三頁第三行ないし第五行)、「この装着器の台板の部分は地盤が軟弱な場所で必要があるとき、ジヤツキあるいはタイヤの下敷となる利便がある。」(同頁第一〇行ないし第一二行)と記載されていることが認められる。
右の記載に基づいて、まず本願考案の台板の突出部分について検討すると、実用新案登録請求の範囲にはその形状を特定のものに限定して解すべきであるとする記載は全くないから、本願考案の台板の突出部分は台板上にタイヤチエインの格子形の部分が入る大きさの突出部分を二個設けたものというべきである。
ところで、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例は「自動車用チエーンの装着具」の考案に関する公開実用新案公報であつて、台板について、第一引用例には、台板上に二個の断面L字状の支持板が固定され、この支持板はそれぞれタイヤチエーンの格子状をなす枠内に入る大きさのものであつて、いずれも台板に対して突出部分として構成されているものが記載されていることが認められるから、第一引用例記載の台板は自動車のタイヤチエーンの格子形となつた部分の中に入る突出部分を二個設けたものというべきである。
原告は、第一引用例記載の考案における突出部分は、断面L字形状の支持板を台板上に固定したものであり、しかも台板と支持板との間に一側を開放した間隙を形成したものであることを理由に、本願考案の台板とは相違する旨主張するが、両者の台板を対比するために必要なことは、第一引用例記載の考案における台板を突出部分(支持板)との関係において把握する場合、それを本願考案の突出部分を有する台板、すなわち、台板上にタイヤチエーンの格子形の部分が入る大きさの突出部分を二個設けたもの(本願考案の台板の形状は、それ以上に限定されるものでないことは、前述のとおりである。)に相当するといえるかどうかであつて、たとえ第一引用例記載の台板がその突出部分として支持板を台板上に固定するものであり、かつ原告主張の間隙を有するものであつても、前記大きさの突出部分二個を有する台板である以上、本願考案の台板との間に差異があるとはいえない。
してみると、審決が、本願考案と第一引用例記載の考案とは、「自動車のタイヤチエインの格子形となつた部分の中に入る突出部分二個を有する台板を持つものである」点で一致するとした判断に誤りはない。
(2) 次に、突出部分を二個有する台板の材質及び広さについて検討すると、本願考案の明細書の前記記載によれば、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「自動車のタイヤチエインのこう子型になつた部分のなかにはいる突出部分二個を有する台板」の構成が示されているだけであり、台板の材質及び広さについてこれを限定して解さなければならないとする構成は示されていないが、突出部分を二個有する台板は自動車の重みを受けるものであるから、その材質としては、前記考案の詳細な説明にも記載されているように、自動車の重みに耐えうる強さをもつた材料が用いられるものであり、また、台板上で自動車のタイヤにタイヤチエーンを装着するのに適する広さを有するものであることは、台板の機能から当然考慮されるべき技術的事項である。
一方、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には台板の材質及び広さについての記載はないが、台板上の二個の突出部分がタイヤにタイヤチエーンを装着するため自動車のタイヤを支持する作用を営むものであることは、前記第一引用例記載の考案の構成から自明であり、このような突出部分を有する台板は自動車の重みに耐えうる材質により、かつ台板上で自動車のタイヤにタイヤチエーンを装着するのに適する広さに作られるものであることは設計に際して当然に配慮される程度の事項である。
原告は、本願考案の台板は積雪上又は軟弱な土質で使用しうる堅牢性を有し、かつ適度の広さを有するのに対し、第一引用例記載の台板はこのような材質及び広さを有しないものであり、審決はこの相違を看過した旨主張する。
しかしながら、本願考案の台板については、実用新案登録請求の範囲には、「自動車のタイヤチエインのこう子型になつた部分のなかにはいる突出部分二個を有する台板」の構成が示されているだけであること前説示のとおりである。原告の右主張が本願考案が積雪上又は軟弱な土質において、タイヤにタイヤチエーンを装着するのに好適な台板を提供するものであり、右台板はそのための材質の堅牢性及び広さを有することをいう趣旨であるとすれば、このような台板については本願考案の明細書には全く開示がない(前掲甲第二号証の三によれば、本願考案の詳細な説明には、軟弱な地盤に触れている記載部分があるが、これは地盤の軟弱な場所において必要があるときは、台板をジヤツキやタイヤの下敷としても使用できることを述べたにとどまるものであることが認められ、右はタイヤチエーンの装着とは関係のない記載であるというべきである。)から、原告の右主張は採用することができない。
そして、本願考案及び第一引用例記載の考案においては、いずれも、前述のとおり、台板は自動車の重量に耐えられるような材質で作られるものであり、かつ自動車のタイヤにタイヤチエーンを装着するのに適した広さをもつものであるから、両者は台板の材質が堅牢であり、かつ台板は適度の広さをもつ点で相違はないというべきである。
したがつて、審決は、本願考案と第一引用例記載の各台板がその材質及び広さの点において相違することを看過したものとすることはできない。
(二)(1) 前掲甲第二号証の二、三によれば、本願考案のチエイン追棒について、本願考案の明細書には、実用新案登録請求の範囲に、「タイヤチエインをタイヤにそつて伸ばすため用いるのに役立つチエイン追棒」と記載され、考案の詳細な説明に、「第三図はタイヤの上にチエインをすべらすための送り棒である。」(第二頁第五行、第六行)、「タイヤにそつてチエインを伸ばすとき、タイヤとフエンダの間がせまく直接手で伸ばしにくいときは、第三図のチエイン棒を使用する。」(第三頁第七行ないし第一〇行)と記載されていることが認められる。
右の記載に基づいて、本願考案のチエイン追棒の目的、構造について検討すると、チエイン追棒は、タイヤとフエンダーとの間のせまく手を伸ばしにくいところのタイヤ部分にチエーンをかけ渡すために用いられるものであるが、構造については、実用新案登録請求の範囲において、チエイン追棒の形状、構造を特定する限定的記載はなく、考案の詳細な説明においても、別紙図面(一)第三図のものがチエイン追棒である旨記載されているだけで、その具体的構造についての説明は全くないから、単にタイヤチエーンをタイヤに沿つて伸ばすために役立つものであるという機能をもつものであり、そのために手を伸ばしにくいところまで達することのできる程度の長さをもつ棒状のものであることを意味するにとどまるというべきである。
ところで、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例は、「車輪にチエーンを捲回する方法及びチエーン掛け具」の発明に関する公開特許公報であつて、第二引用例の明細書の項には、チエーン掛け具について、「自動車が通常の道路から雪道に差掛つた場合には車輪にチエーンを捲回しなければならない。この場合現在では何らの道具を用いることなく、全て人の手を以つて作業を行つている。車体にはフエンダーがある為このチエーン掛け作業は面倒である。」(第二欄第一七行ないし第三欄第二行)、「本発明は上記の点に鑑みて極めて簡単な道具を利用して平易にチエーン掛け作業を行うことを目的としてなしたものである。」(第三欄第六行ないし第八行)、「3は本発明方法に使用するチエーン掛け具で、図示した実施例では鋼製の太い棒を彎曲させて構成してある。このチエーン掛け具は略半円形をなす主体4と把手5とからなり、上記主体4の両端位置に夫々同方向に指向したフツク6、6を設けてある。このフツク6、6は必ずしも同方向に指向させる必要はなく、又図示した向きと逆向きにしてもよい。更にこのフツクは二つに限られることなく主体4に間隔を置いて複数個設けてもよい。」(第四欄第一一行ないし第二〇行)、「車輛を移動させて車輪2を該チエーン1上に配置する。その後、上記チエーン掛け具3のフツク6、6にチエーン1の一端若しくはその近傍を係合させた後、把手5を把持してチエーン掛け具の主体4が車輪2の外側を抱くような形となるよう該チエーン掛け具3を持ち来たし、その状態を維持させてこのチエーン掛け具3をフエンダーと車輪2の間にまで移動し引続いて車輪2の周りを移動させる。これによりチエーン1は上記チエーン掛け具に引かれて移動し、車輪2の周囲を捲回することになる。」(第五欄第六行ないし第一六行)、「本発明の方法によれば、車輛のフエンダーと車輪2との間に手を挿入することなく作業の行い易い外部で必要な作業を行うことができ、而も実際にチエーンを車輪の周りに移動させるときにはチエーン掛け具の把手を把持して車輪の側方で作業を行い得る。従つてチエーン掛け作業を円滑迅速になし得ると共に手及び衣服を汚すこともない効果を有する。」(第六欄第一七行ないし第七欄第四行)と記載されていることが認められる。
右の記載に基づいて第二引用例記載のチエーン掛け具の目的、構造について検討すると、チエーン掛け具は、車輛のフエンダーと車輪との間の狭い部分に手を挿入することなく、チエーンを車輪の周りに掛けることを目的とするものであり、その構造は、フツクを設けた略半円形をなす主体と把手とからなるものであることが示されているが、その構造を機能的表現にかえると、タイヤチエーンをタイヤに沿つて伸ばすために役立つ構造を有しているというべきである。
そこで、本願考案のチエイン追棒と第二引用例記載のチエーン掛け具とを対比すると、両者は、共に、タイヤにチエーンを掛け渡すに際して、車輛のフエンダーとタイヤとの間の手を挿入することができない部分においてチエーンを掛けるのに役立つ棒状部材を提供することを目的とするものであり、本願考案は、具体的手段において特定の形状、構造に限定するものではなく、その実用新案登録請求の範囲に示されるタイヤチエーンをタイヤに沿つて伸ばすために用いるのに役立つ構造をもつチエイン追棒であり、この点第二引用例に示されたフツクを設けたチエーン掛け具も同様の構造を有するといえるから、両者の構造に差異があるといえない。
したがつて、審決が本願考案と第一引用例記載の考案との相違点を判断するに当たり、自動車にタイヤを捲回装着するに当たつて、チエーン掛け具を用いることは、第二引用例に記載されているとおりであるとした判断に誤りはなく、また、本願考案のチエイン追棒は、そのチエーン掛け具を形状において単純化したものであるとした点は、表現において正確性を欠くが、両者の技術的使命及び構造に実質的に差異がないことを明らかにした点において誤りがないというべきである。
(2) タイヤにタイヤチエーンを装着するに当たり、タイヤの下にタイヤチエーンを配置する作業(第一作業工程)が必要であり、次にタイヤの下に配置されたタイヤチエーンをタイヤの回りに掛け渡す作業(第二作業工程)が必要であることは、技術常識である。
そして、本願考案が第一作業工程に関する技術手段として採択したものであること前記(一)(1)摘記の明細書の記載から明らかな、自動車のタイヤチエインの格子型になつた部分の中に入る突出部分二個を有する台板を持つ構成が同一工程に係る第一引用例記載の考案における台板の構成と一致し、また、本願考案が第二作業工程に関する技術手段として採択したものであること前記(二)(1)摘記の明細書の記載から明らかな、タイヤチエインをタイヤに沿つて伸ばすために用いるチエイン追棒が同一工程に係る第二引用例記載のチエーン掛け具と実質的に差異がないこと前記説示のとおりであるところ、第一作業工程と第二作業工程を必要的なものとして関連させる前記技術常識に従い台板とチエイン追棒とを組合わせて本願考案のように構成することは、前記作業工程の全体中に更に特定の技術的構成を介在させる等のことがあれば格別、そのような構成の存在も明細書の記載から看取できない以上、当業者において格段の考案力を要するものではないとみるのが相当である。
原告は、堅牢な、かつ適度の広さを有する台板とチエイン追棒とを組合わせて使用することにより、本願考案は、<1>積雪上でも、水分を含んだ軟弱地盤でも、タイヤチエーンの装着が能率的かつ正確に行われる、<2>利用者の購入、携帯に便利である、<3>台板は、ジヤツキを使用する場合の下敷、あるいは積雪中にタイヤがめり込んだ場合の脱出用の下敷等に有効に使用できる効果を奏すると主張する。
しかしながら、第一引用例記載の台板は、本願考案と同じく、材質が堅牢であり、かつ適度の広さを有するものであることは、前記(一)(2)において判断したとおりであり、第二引用例記載のチエーン掛け具も、本願考案のチエイン追棒と、その目的、構造において差異がないことは、前記(二)(1)において判断したとおりであり、その組合せに格別の考案力を要しない以上、<1>、<2>は両者を組合せて使用することによつて通常予測しうる範囲の効果にすぎず、また、<3>は、本来のタイヤチエーンの装着とは関係のない効果であり、かつ第一引用例記載の台板自体が奏しうる効果にすぎない。
したがつて、審決が本願考案において、台板とチエイン追棒とを組合せて使用することによる効果は自明であり、これを組合せて使用する点に当業者が格別の考案力を要するとは認められないと判断したことに誤りはない。
(三) 以上の理由により、本願考案は、第一引用例及び第二引用例に記載された事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとした審決の判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法はない。
3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
自動車のタイヤチエインのこう子型になつた部分のなかにはいる突出部分二個を有する台板とタイヤチエインをタイヤにそつて伸ばすため用いるのに役立つチエイン追棒を組あわせて使用することを特長とするタイヤチエイン装着器